満たされるものを探して(「鉈切り丸」序)

 ある方からチケットを譲っていただけることになったので、11月30日の夜公演(千秋楽)に「鉈切り丸」を観劇してきた。
 もう一度観たい舞台か?と問われれば「いいえ」と答える。ならば見なければ良かったか?と自問すると、それにも「違う」と答える。「鉈切り丸」は私にとってはそういう作品。そして、自分が完璧な記憶力を持っていなくて良かったな、とも。

 もう一度観たくない理由は、演出の暴力的シーンに体が根を上げたから。アニメや漫画等を未だに基盤にしている私は実写系(舞台)の生々しい表現に着いていけないときがある。
 六の方主演の映画「SP革命編」でも議事堂占拠方法が気持ち悪くて吐き気を耐える羽目になった。そのときに一緒に映画を見たお知り合いが、先に今回の舞台を観てかなりキツい思いをされたようで、私には向かないだろうなと判断して「(観劇の際は)気をつけて」というメールを送ってくれていたのだが、そのメールを読んだのは観劇後帰宅電車の中だった。
 義経の首が頼朝の前に運ばれて、その桶の中の酒をどうするかという部分で吐き気がしてちょっと記憶が飛んでいる。自分にとっては上記の議事堂占拠方法レベルの気持ち悪さ。歴史でも、織田信長の敵武将の頭蓋骨で杯を作って云々という話を読んだことがあるので、ありそうな話なのだろうが、体が受け付けないものは受け付けない。
 でもここまでは何とかなった。が、体が覿面に根を上げたのは2幕の前半位?、巴が殺された(らしい)場面。吐き気から貧血一直線だった。「最後の口づけ」とかいう台詞辺りで吐き気から一気に貧血を起こして椅子にちゃんと座っていられなくなった。少しでも楽になるよう体をなるべく椅子の上で横にして体調が戻るのを待った。暫く立つと少し体調が良くなってきたがやはり座れる所までは回復せず、後半は半分寝そべった姿勢で観劇。ただなぜか、『観ろ!。無意味にこんな暴力シーンがある作品じゃないはずだ』と、鈍った頭で思ったので。
 観劇した席は、演技者の細かい表情は分からない上から見下ろす3階席ど真ん中だった。この席は色々な意味で好都合だった。もっと臨場感を味わえる1階席だったら、きっと吐き気から貧血一直線ではなく、リバース、若しくは観劇中に立ち上がってトイレに向けて脱そうだったろう。どっちにしろ周囲に大迷惑。ついでに、1階席などに比べて3階席は前列との高低差が大きいので、寝そべり姿勢でも舞台の正面一部を観ることが出来た。きちんと座っているときに比べて見えるのは5分の2位だが。だが、範頼の最後、水の上に横たわっての部分はちょうど位置的に観ることが出来た。
 多分22時ぐらいに終演だったのだろうが、少しの間しか立ってられないので3階フロアでヤンキー座り?風にしゃがみ込んでいた。そうしたら誘導係のお姉さんが椅子を持ってきてくださったのでお借りした。22時半位にようやく肘先と膝下が貧血のせいの痺れがとれ、手足の温度が戻ってきたので先のお姉さんに椅子をお返しした。(今気づいたが、一緒に観劇した方を30分近くも立ったまま待たせてしまっていた。済みません。)
 その際に、私が「舞台内容で貧血起こすなんてみっともないですよね」と言うと、「いのうえ(いのうえさん、だったかも)が演出(演技指導、だったかも)に力を入れていましたから。1公演に1人くらいは体調不良になる人がいましたよ。ベッドで横になる人もいましたし」と教えてもらった。演出家のいのうえひでのりさんは少なくとも体調不良で脱落者が出ることを知っていて(あるいは開幕前から想定済み?)、それでもあのシーンを入れていたのだなと、お姉さんの言葉から推察。あえてあそこまでやった理由…。翌日はその理由をちらちらと考えていた。

 2幕途中から上記のような体調、跳んだ記憶、貧血による思考の低下
、舞台の中央部分しか見られない視界の狭さ。加えて、最後まで呼吸が安定しなくて自分の呼吸音がうるさくて、台詞を聞き取ない部分も多くて。作品について感想を書くには余りに不完全な鑑賞だが、それでもあえて、「見なければ良かったか?」には「いいえ」と答える理由を次回書きたい。キーワードは"欲望"と"怪物"。性に合わないだろうと分かっていて観に行った理由も込みで。
 多分、四の方ファンが読んでも楽しくない内容になるかなと思う。物語そのものの話になるだろうので。